CCPM実践編:バッファ半減でも納期厳守!クリティカルチェーンで現場が変わる
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はじめに
#前回の記事「CCPM理論編」では、CCPM(Critical Chain Project Management)の基盤となるTOC(制約理論)について解説しました。
CCPMは、タスクごとのバッファを集約して全体で管理し、制約リソースを最大限活用することで、プロジェクトの納期短縮とスループットの向上を目指すプロジェクト管理手法です。
個々のタスクに潜む「隠れたバッファ」を見える化し、プロジェクト全体で最適に活用することで、より現実的で信頼性の高いスケジュール作成を可能にします。
今回は、CCPMをプロジェクトスケジュール作成にどのように適用し、 「バッファ半減でも納期厳守!」という目標や、「クリティカルチェーンで現場が変わる」という効果が、どのようにして実現されるのかを紹介します。
CCPMは、単なるスケジュール表作成のテクニックではありません。
これは、プロジェクトの目的を達成するために必要な「最短ルート」と「確実な実行」を実現するための、思考法と仕組みを兼ね備えたアプローチです。
「納期を守れない」「進捗報告ばかりでなかなか前に進まない」といったプロジェクト運営にありがちな課題を、構造的に解決するためのヒントがCCPMにはあります。
なぜスケジュールは守られないのか?
#プロジェクト遅延の原因となる典型的な行動パターンが存在します。
- マルチタスクの罠
既存のプロジェクトを実施しているのに、特急レベルの新しいプロジェクトが立ち上がることがあります。
これが重なると業務が滞留し、生産性が低下します。 - 場当たり的なリソース割り当て
マネージャーやリーダーが段取りを軽視し、リソースの適切な管理を怠ることがあります。 - タスクのバッファを使い切る習性
タスクが予定より早く終わっても報告されにくく、結果として与えられたバッファがすべて使い切られてしまう傾向があります。 - 管理のための管理に陥る
遅れまいと管理に注力するあまり、「管理のための管理」に陥り、報告書作成や会議が増え、結果として過度な管理状態となってしまうことがあります。
これら4つの問題行動を解決するためにCCPMの手法は設計されました。
Step1:マルチタスクをなくす
#なぜ1つに集中すべきか
#2つの作業を交互に行う場合と、1つずつの作業を片づける場合
- ひとつひとつ作業に集中して順番に片付ける方が早く完了します
- ひとつひとつ作業に集中して順番に片付けるほうが品質も向上します
と理解していても、現実にはマルチプロジェクトやマルチタスクは避けられない場面が多いでしょう。
特定の人にしかできない作業などは、その担当者に業務が集中してしまいがちです。
マルチタスクが業務に及ぼす悪影響や、対策について詳しく知りたい場合は、以前の記事「「もう残業しない!」マルチタスクの罠から抜け出し、最速で成果を出す方法」で解説していますので、こちらもあわせてご覧ください。
プロジェクトの優先順位付けと集中
#経営の視点から評価基準を定め、優先順位をつけて選択と集中を実施しましょう。
下表は一例ですが、プロジェクトを評価する軸を定めて評価し、優先順位を決定します。
この例では、評価軸を「売上」「利益」「戦略重要性」「社員のやる気」として評価しています。
上から◎→〇→△→×の順で評価し、この例では「Donut」プロジェクトを最優先としています。
優先順位に応じたリソース配分
#最優先としたプロジェクトに手厚くリソースを配置します。
優先度が低いと判断され、すぐには着手しないプロジェクトについても、担当マネージャーは将来の開始に向けて万全の準備をします。
(例:プロジェクト目標の再確認、工程表の更新、残タスクに必要な事前準備など)
Step2:プロジェクトの目標を共有する
#曖昧なプロジェクト目標設定を避け、関係者間で共通認識を持つために、ODSC を明確にします。
- 目的(Objectives)
財務、顧客、業務プロセス、成長・育成、経営理念、社会貢献といった多様な視点から、各ステークホルダーにとってのプロジェクトの目的を洗い出します。 - 成果物(Deliverables)
目的を達成するために、具体的に何を成果物として作成するのかを記述します。 - 成功基準(Success Criteria)
外部から客観的に観測可能な言葉で、プロジェクトの成功基準を明確にします。
Step3:目的から逆算する「成功シナリオ」
#「成功の姿」からの逆算設計
#スケジュールはWBSのようにタスクの積み上げ作業を並べるのではなく、ODSCつまり成功の姿から「何が必要か」をたどることでスケジュールを構築します。
具体的には、ODSCを起点として「成果物→タスク→成果物→タスク…」というように、目的達成に必要な条件を洗い出していきます。
その際には、抜け漏れを防ぐために以下の3つの質問を繰り返しながら、ODSCからプロジェクト開始方向へ遡り、最初のタスクに至るまで検討を進めます。
- その前にやることは何か?
- 本当にそれだけか?
- 〇〇したら××できるのか?
「最終試験」といった単なる工程名ではなく、多少長くなっても「(目的語)を(動詞)する」(例:「PP品で最終試験を実施する」)という形式で記述することをお勧めします。
これにより、タスクの目的と完了条件が明確になり、他の関係者にも伝わりやすいタスク定義となります。
またタスクを監視する際に進捗判断がしやすくなる効果もあります。
リソースと期間の割り当て
#必要なすべてのタスクと成果物が洗い出せたら、最初のタスクからODSCに向かって、各タスクを「誰が」(主語)実行するのか、リソースを割り当てます。
次に、割り当てられたリソースがそのタスクを実行した場合にかかる期間を見積もり、各タスクに所要期間を記入します。
最後に声を出して「主語は目的語を〇日で動詞する」と読み上げます。
(例:「高橋は、PP品を使用して最終試験を10日間で実施する」)
このように読み上げることで、担当者は作業内容を具体的にイメージしやすくなり、見積もり精度の向上も期待できます。
Step4:個々の安全余裕を集約し、「プロジェクトバッファ」として活用する
#ここからは成功シナリオにリソースと見積もった期間を割り当てたガントチャートを使いながら説明します。
マルチタスクの排除
#リソースの重複をなくし、マルチタスクを解消します。
下図のタスクの色は担当者を表しており、例えば黄色のタスクは3つありますが同じ担当者が実施することを意味します。
左のガントチャートでは、同じ担当者(黄色と赤色)のタスクが並列に割り当てられている箇所(マルチタスク)があります。
これを解消するため右のガントチャートのように担当者が同じタスクは並列にならないよう期間を調整します。
安全余裕を識別する
#タスクの担当者は、「期限を守らなければならない」という強い責任感や使命感から、無意識のうちに作業期間へ安全余裕を盛り込む傾向があります。
特に、真剣に業務へ向き合う実直な担当者ほど、確実に期限を守るために、この安全余裕を多めに設定してしまう傾向が見られます。
担当者にタスク期間の内訳を確認し、「安全余裕」と「50%の確率で完了できる期間(実作業期間)」を分離します。
担当者に確認した結果、もともと五分五分の確率で完了できる期間である場合は、そのままの期間を採用します。
安全余裕の集約とプロジェクトバッファ
#各タスクから抽出した安全余裕を集約し、プロジェクト全体のバッファとして最終タスクの後ろに配置します。
これをプロジェクトバッファと呼びます。
納期を決める
#各タスクの期間を「50%の確率で完了できる期間」で見積もることで、個々のタスクに含まれていた過剰な安全余裕がプロジェクトバッファとして集約されました。
全タスクが最大の安全余裕を要する確率は低いです。
そのため集約バッファを半分程度に設定しても、全体では遅延を十分吸収でき、現実的な期間となります。
この集約と最適化こそが、タイトルでうたっている「バッファ半減でも納期厳守!」という、効率的かつ信頼性の高いプロジェクト運営の土台を築くのです。
ただし、プロジェクトバッファを半分にするというのは、あくまで目安にすぎません。
最終的な納期は、プロジェクトの特性や許容できるリスクレベルを経営的視点から考慮し、経営層と協議の上でプロジェクトマネージャーによって意思決定することが重要です。
Step5:クリティカルチェーンを見つける
#クリティカルチェーンを特定する
#プロジェクト全体の期間を決定づけている最も長い一連のタスクの連なり(パス)を探します。
上図の例では、「6日→8日→3日→6日」と続く一連のタスクが、プロジェクト全体の期間を決めている最も長いパスです。
CCPMでは、このようにリソース制約を考慮した上でプロジェクト全体の期間を決定する最長経路を「クリティカルチェーン」と呼びます。
合流バッファを準備する
#クリティカルチェーン上のタスクはプロジェクト全体の期間を左右するため非常に重要ですが、それ以外のタスクがクリティカルチェーン上のタスクに合流する箇所も考慮する必要があります。
クリティカルチェーン以外の経路から合流してくるタスク群の遅延がクリティカルチェーンに影響を与えないよう、リスク対策として合流ポイントの直前に安全余裕を設けます。
この安全余裕は、クリティカルチェーンが遅延から保護されるように機能するもので、「合流バッファ」と呼ばれます。
上記サンプルのガントチャートの合流バッファは、非クリティカルタスクの所要期間の半分を取るように設定しています。
プロジェクトバッファと合流バッファ、そしてリソース制約を考慮したクリティカルチェーン。
これらを組み合わせることで、不確実性に対応しつつ、プロジェクト目標達成に向けた「現実的スケジュール」が完成します。
このクリティカルチェーンへの意識と集中が、日々の作業の優先順位を明確にしチームの連携を強化することで、プロジェクト現場そのものを前向きに変えていくのです。
おまけ クリティカルパスとクリティカルチェーンの違い
#一般的には、PMBOK®ガイドにも取り入れられているクリティカルパス法(CPM)の方が広く知られ、使われているかもしれません。
CPMのクリティカルパスは、プロジェクト内のタスクの依存関係と各タスクの所要時間に基づいて計算される、プロジェクト完了に最も長く時間がかかる経路です。
一方、CCPMにおけるクリティカルチェーンは、依存関係に加えて、リソースの可用性(例:特定の作業者や機材が同時に複数のタスクに対応できないなど)も考慮します。
これにより、現実的なリソース制約を反映した最適なスケジュールを組み立て、最も納期に影響を与える経路をクリティカルチェーンとして特定します。
まとめ
#本記事では、CCPMを実践し、「クリティカルチェーンで描く現実的スケジュール」を作成するための具体的なステップを解説しました。
タスク毎の安全余裕を集約・最適化し、リソース制約を反映したクリティカルチェーンの特定により、従来手法の課題克服への道が見えるでしょう。
CCPMは単なるテクニックではなく、プロジェクトに関わる人々の行動や意識を変革するポテンシャルも秘めています。
本記事が、皆様のプロジェクト運営における課題解決の一助となり、より「現実的」で成功確度の高いプロジェクト遂行に繋がれば幸いです。
次回は「CCPMツール編」として、クリティカルチェーンの特定や合流バッファの設定をツール(Googleスプレッドシート+Apps Script)を使って自動設定をする方法を紹介する予定です。
手作業では難しいリソース制約の反映やバッファ計算を効率化するための実装例をご紹介しますので、ぜひご期待ください。