【アジャイルFAQ 第6回】デイリースクラムが進捗報告会になっています

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 この記事を読んでいただきありがとうございます。アジャイルグループに所属する、藤井智弘です。
 第3回から5回は、「アジャイルの基礎の解説」としては、だいぶ変化球だった気もするので、驚かれた方もおられるかもしれません。しかし、FAQとしてはほんとによくいただくので、「そういう連載だったな」と思い返していただければ。
 第6回は、基本の基本に立ち戻りたいと思います。

質問

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 毎朝15分のデイリースクラムを続けていますが、順番に「昨日やったこと・今日やること・困っていること(3つの質問という名で研修で習ったヤツ)」を各自報告して終わるだけの会になっています。正直、誰も他の人の報告を聞いていません。しかも会が終わった直後に、あちこちで本当の相談が始まります。デイリースクラムという”儀式”には、やる意味があるのでしょうか?

回答

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 「終わった直後に本当の相談が始まる」…質問のこの一文に、答えの糸口があります。
 チームには毎朝、話し合うべきことがあります。

  • 誰がどこで詰まっていて、
  • 誰の手が必要で、
  • 何を先に終わらせるか

 これが、スプリントゴール達成に向けた「今日の活動の再計画」です。それが会の後で自然に発生しているのですから、このチームは、相談すべき項目がきちんと認識され、相談できる関係性もあるといえます(質問者の方には、「良い兆候である」とお伝えしたいですね)。足りないのは、その会の後の相談と「15分」とのつながりです。各自持ち回りの発表は、誰と誰が今日何をすべきかを浮かび上がらせないまま終わり、本当の相談は、たまたま隣にいた人同士で、たまたま気づいた順に始まる。15分が不要なのではなく、デイリーが「会の後の相談」を生み出す装置として働いていないのです。

 ですから、デイリーをやめると決める前に、報告会になってしまう構造を直しましょう。鍵は「誰に向かって話しているか」と「この15分で何を決めるか」の2つです。

図1:本当の相談は、会が終わった直後に始まる

「15分に収めなさい」と言われて、疑問に思ったことはありませんか?

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 ところで研修や現場で、「デイリーは15分に収めなさい」「進捗報告にしてはいけません」と指導されたことのある方は多いと思います。そのとき、こんな疑問を持ちませんでしたか?

  • 進捗の共有はそれ自体大事なはずなのに、なぜそれで終わるとダメ出しされるのか。
  • そもそも15分で何ができるというのか。
  • 全員に必要な情報なら、30分かかっても共有されるほうが大事ではないのか。

 私も同じことを思いました。答えを先に言えば、共有が悪いのではなく、共有「しか」していないのが問題です。15分は共有には短いが、今日の動きを決めるには十分。そして、全員に本当に必要な情報は思っているほど多くない——これだけでは納得できないと思うので、まずデイリーがどんな姿になりがちかを見たうえで、腰を据えて答えます。

デイリースクラムのあるある

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 報告会化したデイリーには、いくつかの型があります。ご自分のチームがどれに近いか、当てはめながら読んでみてください。

 その1:報告会型——いちばん多い型です。話し手の目線が、チームメイトではなくスクラムマスターやリーダーに向いています。順番に話し、順番が来るまでは待つ。冒頭の質問の状況、そのままです。

 その2:顧客報告型——業務系の現場で起きやすい型です。発注側の担当者や、部長クラスの管理職が「様子を見に」デイリーに顔を出す時に見られます。関心を持ってくれているという意味では良い面もありますが、その瞬間からデイリーは「顧客向けの進捗報告」に変わります。受注側のメンバーは発注側に向かって話し、リーダーはその場を取り繕い、困りごとはいっそう小さく語られる。場合によっては、「デイリーで何を話すか」を事前に相談する”軽いリハーサル”が行われたりするかもしれません。ちなみに、このような状況では、第3回で見た、発注側と受注側が互いを前にして思考を止める構図が、毎朝再演されます。

 その3:他所報告型。業務系の保守・更改チームには、他案件や運用と兼務のメンバーが珍しくありません。兼務者のデイリーは、放っておくと「今日は午前中に別案件の障害対応があって、午後は会議で…」という、他所の予定もふくめた「私の作業の全体」の報告になりがちです。本人は誠実に話しているのですが、このチームの再計画には何の材料も与えません。

 その4:日報型。リモートのチームによく見られる、デイリーをチャットへの投稿で済ませている形です。各自が「昨日・今日・困りごと」を書き込んで終わり。記録が残る点は悪くありませんが、誰も読まず、誰も返さず、書くことが目的になります。宛先のない報告——つまり日報であり、報告会化の行き着いた姿です。

 その5:延長戦型——報告会化と同時にチームが陥りがちな型です。相談が会の中で始まり、15分が30分、40分と延びていく。相談が行われること自体は、単なる報告会よりも前進ですが、一部の人に必要な話を全員が聞いている時間が、毎朝積み上がります。

根底にある勘違いはなにか?

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 五つの型は見た目が違いますが、根底にある勘違いは共通しています。「デイリーは情報を共有する場だ」という前提です。この前提に立つと、共有が済めば会は成功であり、時間がかかるなら延ばせばよく、共有したい人が増えるなら同席させればよい、という判断がすべて自然に導かれます。五つの型は、この前提を素直に実行した結果にすぎません。

 ここで、冒頭に掲げた「15分に収めなさいと言われた時に感じる3つの疑問」について考えましょう。

 まず、共有で終わることの何が悪いのか。進捗の共有そのものは重要で、悪くありません。問題は手段です。人が声に出して順番に共有するのは、共有の手段の中で最も高くつきます。8人で15分なら、毎朝2時間分の工数です。しかも報告会型の共有は「順調」に寄るので、情報の質も落ちがちです。情報の共有であればタスクボードとバーンダウンチャートのほうが安く、正確で、いつでも見られます。つまり報告会型のデイリーは、ボードのほうが上手にできることに時間を使い、会にしかできないこと——決めること——を一つもしていない。共有が悪いのではなく、共有「しか」していないことが問題なのです。

 次に、15分で何ができるのか、30分かかっても全員で共有したほうが大事ではないか。15分は、情報を共有するには短すぎますが、今日どう動くかを決めるには足ります。ゴールとの距離を確かめ、いま最も危ない項目を一つ特定し、誰と誰がこの後話すかを決める。ブリーフィングではなく、トリアージの時間です。そして「全員に必要な情報」なら、30分かけてでも共有すべきというのは、その通りです。ただ、現場で数えてみると、全員に必要な情報はゴールとの距離くらいで、残りの大半は2〜3人に必要な情報です。30分のデイリーの実態は「一部の人に必要な話を、全員が聞いている時間」であることがほとんどです。全員に関わることだけを全員で、残りは該当者だけで、と分けるのがデイリーの設計であり、15分という枠は「全員に関わることは、それくらいしかない」という経験則の表れです。毎日30分必要だと感じるなら、ゴールが曖昧か、項目が大きすぎるか、ボードが情報共有を担えていないか——そのどれかを疑う警告だと受け取ってください。

 では、なぜ「共有の場」という前提が入り込むのか。多くのメンバーは、スクラム以前の文化——上司に進捗を報告し、指示を待つ——を身につけてから、スクラムチームにやってきます。「朝会で話す」という行為に、これまでの職業人生で染み付いた「報告」のフォーマットが自動的に適用される。悪意も怠慢もありません。ただ宛先(誰に向けて伝えるか)が違うだけです。しかし宛先が違うと、会の性質は根本から変わります。宛先が管理者なら、目的は「自分がちゃんとやっていると伝えること」になり、順調であることを示す話が増え、困りごとは小さく語られ、他人の報告は「自分の番を待つ時間」になります。「透明性のために同席してもらう」も、同じ勘違いの派生です。

図2:宛先が変わると、会の性質が変わる

 よく知られている「3つの質問」も、この勘違いを補強してきました。台本として読み上げれば、それは共有の手順にしかなりません。スクラムガイド2020から「3つの質問」の記載が消えたのは、手段の目的化を避けるためです。もうひとつの構造要因は、スプリントゴールの不在です。ゴールが「今スプリントに積んだタスクを全部終わらせる」程度の意味しか持っていないと、「ゴールに向けて再計画する」という行為が成立せず、残るのは個人ごとの作業報告だけになります。デイリーの形骸化は、しばしばゴールの形骸化の症状です(ゴールの立て方は第2回でも触れました。今後もたびたび出てくるはずです。それだけ急所だということです)。

 では、本来のデイリースクラムは何をする時間か。スクラムの基本は経験主義で、その柱は透明性・検査・適応の3つです。デイリースクラムは、この3つを毎日回す、いちばん小さなループです。
 透明性——スプリントゴールに対して、何が終わっていて何が終わっていないかが、全員に同じように見えていること。これはボードの仕事であって、会の仕事ではありません。会は、見えているものを前提に始めます。
 検査——見えているものをゴールに照らして、「このままで間に合うか」「今日いちばん危ないのはどこか」を確かめること。
 適応——検査の結果を受けて、今日の動きを変えること。誰が何を先にやるか、誰が誰を手伝うか、何を後回しにするか。この検査と適応が、デイリースクラムの中身です。

 こう見ると、報告会型のデイリーで何が起きているかがはっきりします。透明性を会でやろうとして15分を使い切り、検査も適応も行われていない。これを昨日の自分を説明する場から、今日のチームの動きを決める場に転換しましょう。この一点がずれると、あとは全部ずれます。

 適応の中身が、冒頭の質問にあった「終わった直後の相談」です。なくすものではなく、デイリーの側から意図して生み出すもの。ただし、開発者が抱える相談事の全部を15分でこなすのは土台無理です。個別の相談がバラバラに行われると情報の共有が機能しなくなり、すべての相談に全員が拘束されるとコードを書く時間が奪われる。ですから、相談事に対するデイリーの役割は「相談すべきことと相手を特定する」ところまで。「誰と誰が、何を、この後話すか」が、デイリーの成果物です。15分は「ムリをしてでも相談を終わらせる時間」ではなく、検査をして、適応の相手と議題を決める時間なのです。

処方

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 以下の処方は、どれも手段です。デイリースクラムの進め方は有識者がさまざまに提案してくれていて、どれを選んでもかまいません。ただし、ただなぞって「できてます」感を得て終わるなら、3つの質問を台本で読むのと同じことです。試したあとは、透明性・検査・適応のどれが充実したかで、自分たちに何が有効かを判定してください。

まず、会の後の相談を1週間記録する
 直す前に、測ります。デイリーが終わった直後に始まる相談を、1週間だけメモしてください。「誰と誰が・何について・何分」の3項目で十分です。1週間分を並べると、このチームが毎朝本当に必要としている議題の一覧——いまの15分が扱えていない中身の実測値——が手に入ります。誰が誰を待っているか、どの項目に相談が集中しているか、同じ二人が毎日話しているか。以降の処方は、この記録があると格段に通しやすくなります。「デイリーを変えよう」という提案は抵抗に遭いますが、「先週、会の後に毎日平均40分の相談が起きていました。その分を15分の中で拾えないでしょうか」という提案は、数字が説得してくれるからです。

問いを変える
 「昨日何をしましたか」をやめて、こう聞いてみてください。

  • 「スプリントゴールの達成に向けて、今いちばん危ないのはどこですか」
  • 「今日、誰と何を解決しますか」
  • 「間に合いそうですか?」

 個人の行動確認ではなくゴールとの距離を話題の中心に置くと、報告は自然と相談に変わります。

人ではなくタスクボードを歩く
 発言順を「人の順番」から「PBI(プロダクトバックログアイテム)の順番」に変える方法も効きます。タスクボードの右端——完成にいちばん近い項目——から順に、「これを今日終わらせるには?」と見ていく。主語が「私」から「この項目」に変わるだけで、話は担当者の作業報告から、チームとしての完成戦略に変わります。着手済みのものを終わらせる意識づけにもなり、一石二鳥です。リモートでも同じで、画面共有したボードの右端から歩けばよく、「順番に顔を映して報告」に戻さないことだけ気をつけてください。日報型のチームなら、投稿の型を「今日、誰に何を頼むか」「誰の何を待っているか」に変え、名指しされた人が返す約束を作ってください。宛先があれば、テキストベースでも相談になります。

図3:タスクボードを歩いて、論点を明確化する

聞き手の配置を変える実験
 報告の宛先がリーダーに向いているチームでは、リーダー(やスクラムマスター)が輪の一歩外に下がる、あえて欠席してみる、という実験が有効です。宛先を失った報告は行き場を探し、チームメイトに向かい始めます。乱暴に聞こえるかもしれませんが、「自分がいないとデイリーが成立しない」状態こそ、リーダーにとっての危険信号です。この実験の前提として、進捗の把握はタスクボードやバーンダウンチャートのような「見たい人がいつでも見られる情報」で担保してください。報告の場を減らすなら、情報の置き場を先に作ることです。

図4:かわいい子には旅をさせる

外から来る人の席を決める
 顧客報告型になっているなら、発注側や管理職を追い返す前に、席を用意しましょう。進捗を知りたいなら、ボードとバーンダウンチャートを公開して、いつでも見られるようにする。判断に関わりたいなら、その場所はスプリントレビューです(今後扱います)。それでも同席したいと言うなら、「発言しない・質問はレビューで」を約束してもらってください。約束が守れない相手なら、その人が来る日だけデイリーが報告会に戻っていることを、チームは自覚しておくべきです。

兼務メンバーは、このチームに使える時間だけを話す
 他所報告型への処方です。兼務者が話すべきは「このチームのゴールに対して、今日どれだけ使えるか」。「今日はこのチームに2時間。この項目の確認までは終える」で十分です。使える時間を先に宣言してもらうと、残りのメンバーはそれを前提に今日の動きを組めます。兼務が多いチームでは、この宣言がデイリーの最初の一言になっていると、後の話が全部具体的になります。

「誰と誰が、何を、この後話すか」を成果物にする
 「誰と誰が、何を、この後話すか」をデイリー内で宣言し、そこまでをデイリーの成果物として公式に位置づけ、会の後に該当者だけ残って話すようにしてください。延長戦型が出てきたら、全員を拘束して解くのではなく、「その話は、この後で誰と誰が」と切り分けて先へ進める。それが、この段階のスクラムマスターの主な仕事になります。

なぜこの質問は30年繰り返されるのか

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 朝会そのものは、スクラムの発明ではありません。多くの組織に「朝礼」や「進捗確認」の文化が先にあり、デイリースクラムは常にその既存の型の上に上書きインストールされます。そして上書きは、しばしば失敗します。見た目(毎朝・短時間・立って話す)が似ているせいで、中身(管理者への報告か、チームの再計画か)が入れ替わっていても誰も気づかないのです。

 新しいメンバーが入るたび、彼らは以前の職場の「朝会」の型を持ち込みます。だからこの質問は、チームの世代交代のたびに必ず再現されます。対処も毎回同じです。形式ではなく宛先と目的を確認すること。「この15分は、誰のための、何を決める時間か」を、チームが自分の言葉で答えられるかどうか。言い換えれば、今朝の15分で検査と適応が起きたかどうか。それがデイリースクラムの健康診断として有効です。


次回: 「レトロスペクティブが機能しません…同じ改善案の再放送と、ToDoの列挙会」

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