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Modeling Forum 2025参加レポート - AI エージェント時代のシン・モデリングを展望!

| 6 min read
Author: masahiro-kondo masahiro-kondoの画像

これは豆蔵デベロッパーサイトアドベントカレンダー2025第5日目の記事です。

はじめに

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先月26日 UMTP 主催の Modeling Forum 2025 が開催されました。

今年は「AI時代のシン・データモデリングとは?」というテーマで多くの講演やパネルディスカッションが行われました。

筆者も当日 Zoom 参加して視聴させていただきました。この記事ではいくつかの講演の内容と感想をお伝えしたいと思います。

Information

Modeling Forum 2025の講演やパネルディスカッションの模様は UMTP の YouTube チャンネルで視聴できます。

Modeling Forum を開催する UMTP (UMLモデリング推進協議会)は、UML モデリング技能認定試験を通したモデリング技術の普及活動、分析力・発想力・想像力強化のための「モデルベース思考法」の普及活動を行っています。UMTP は豆蔵の羽生田が会長を務めています。

豆蔵デベロッパーサイトでは UMTP 認定試験の記事も公開していますので、取得を目指す方は参考にしていただければと思います。

開催宣言

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UMTP 会長の羽生田さんから「UMTPシン・モデリング宣言」が発表されました。

シン・モデリング宣言
当日発表された UMTP シン・モデリング宣言:講演資料のスクリーンショットから

これからの時代の基本的なリテラシーは「よみ・かき・AI・モデリング」である。

と宣言し、見える化・仮説検証とアジャイル・AI との対話・モデルベース開発などでモデリングが果たす役割が謳われています。最後にリベラルアーツとしてのモデリングということで、モデリングを基本的なリテラシーとして位置付けています。

基調講演: 科学的思考におけるモデル:説明、創造、そして概念工学へ

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東京大学大学院情報学環・学際情報学府の植原亮准教授が基調講演をされました。

植原先生の著書「科学的思考入門」では、「第5章 科学的に説明するとはどういうことか」という章でモデルのことを扱っているそうです[1]

講演では、科学者が探求する分野としての「狭い意味での科学」と「広い意味での科学(ふだん使いの科学)」を定義し、それぞれにおいて使われるモデルの特徴が解説されました。前者の例としては遺伝子の分子モデルのように、モデルがメカニズムの説明・理解に直結しているもの、後者の例としては鉄道の路線図のように実際には複雑な現実をヒトの頭で扱いやすくするものが挙げられ、いずれも抽象化(abstraction)と理想化(idealization)が二大特徴であることが説明されました。

後半には概念工学の説明がありました。概念工学は、①分析と評価 → ②改訂 → ③社会実装 というプロセスで概念を扱うということで、自由意志や創造性などの概念の改訂について説明されていました。

感想:
概念工学というものは初耳学だった。ソフトウェアエンジニアリングのモデルは特定の業務の問題を解くということに特化しているけれども、分析と検証を繰り返し洗練(進化?)させていくところは似てるかも。
久々に大学の教養課程の講義を聴いているような気持ちになった(小並感)。

技術講演 AI readyデータ整備のためのデータモデリング

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株式会社データアーキテクト 代表取締役 真野正さんの講演です。

「実践的データモデリング入門」の著者の方です(DB Magazine 懐かしい)。

企業のデータを生成 AI に与えて活用する上でデータマネージメントが重要であることを延べ、エンタープライズ・データモデリングをどう進めるかということがテーマの講演でした。
特に企業が使用するデータが、SoR の構造化データだけでなく、非構造データも増えている点、システムをまたがって整合性のあるデータアーキテクチャを構築する必要性とその進め方が解説されていました。
今後の展望としては、AIエージェントがデータアーキテクチャの維持、品質の担保を担い、データマネージメントは AI エージェントによる自律的なプロセスによって運用されるような世界観が提示されていました。

感想:
現実の AI 導入プロジェクトでも、AI にデータを食わせれば素晴らしい結果が得られると期待する人と、その前にデータを整備しないとガベージ・イン・ガベージアウトだよねという冷静派のせめぎ合い。これは、AI じゃなく BI の時も同じことが言われており、今後も重要課題であり続けるんだろうな。そもそもデータが膨大でシステムの数も多いので、AI に整理を手伝ってもらわないと無理だよなあ。

生成AI時代のドメインモデリング ― OOPとFPを超えて

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株式会社ウルフチーフ 代表取締役 川島義隆さんの講演です。

Information

川島さん Cosense を愛用されているようで、本講演で紹介された話題もまとめられています。

ドメインモデリングのレベルとして、概念・仕様・実装を区別し、仕様モデルの構成要素を以下のように定義しています。

仕様ドメインモデルは、小路の抽象レベルで記述された業務の

  • データ
  • 振る舞い

で構成される

そして、Liskov の手続き抽象に基づく仕様記述の書き方が紹介されました。

  • 入力(データ抽象)
  • 出力(データ抽象)
  • requires: 入力が全域的[2]でない場合に、その条件を書く
  • modifies: 書き換えられる入力を書く
  • effects: 使用される入力についての振る舞いを書く

そして、仕様モデル駆動設計についてのお話。

アウトサイドイン開発:
業務コアの概念がわからないまま、画面駆動/テーブル駆動で設計・開発する → 配線プログラミングになりがち

インサイドアウト開発:

  • ①仕様モデル書く(人が)
  • ②仕様モデルに沿った Presentation モデル(画面)を書く(AI が)
  • ②仕様モデルに沿った Persistence モデル(DB)を書く(AI が)

感想
DbC に似てる。実装言語でよい設計を頑張るのではなく、人は仕様記述に徹して、仕様を AI にレビューしてもらって、AI に実装言語でコードを書いてもらうのは筋がよさそう。実装言語を意識せず仕様を書ける人が強い世界。
仕様記述言語欲しいね。詳細設計書という名の、バグがあっても気づけないドキュメントを延々と書き続けている SIer は今だにいるので、そういうのが駆逐できたらいいなあ。
川島さんの仕様モデル駆動設計の本出たら買おう。

Excelデータ分析で学ぶディメンショナルモデリング~アジャイルデータモデリングへ向けて~

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株式会社風音屋代表取締役ゆずたそ(横山翔)さんによる講演です。

科学専門書) | ローレンス・コル, ジム・スタグニット, 打出紘基, 佐々木江亜, 土川稔生, 濱田大

ディメンショナルモデリングの話でした。ファクトとディメンションをどのように定義するか、業務内容がピボットし続ける時代だからこそ、アジャイルにデータ整備をするの大事というお話をされていました。

さらにデータサイエンティストはお高いが、データ分析は AI エージェントにかなりのアウトプットを期待できるようになっている。信頼できるデータソースを整備すれば、AI エージェントにやらせると安いし早いというお話もされてました。

感想
真野さんのエンタープライズデータモデリングの話にも似てるけど、アジャイルデータモデリングというところが特徴。
データ整備ができれば、データ分析は、AI エージェントにやってもらえばいいというのは分かる。

こんにちは!データモデリング

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エークリッパー・インク代表 羽生章洋さんの講演です。

講演の YouTube 動画は以下にあります。

MF2025-05 技術講演4:こんにちは!データモデリング

「楽々ERDレッスン」の羽生さんです。新しく要件定義の本を書かれたそうです。

AI の登場によって、これまで IT 化の対象にできなかった領域についても低コストでアプリが作れるようになった。人間が上流工程を行うフロントローディングの時代。上流工程・要件定義が一層大事になっている。

IPA のデジタルスキル標準では、データベース設計をすべてのビジネスパーソンが理解すべきリテラシーとして位置付けているそうです。

羽生さんは現在デジタル人材のリテラシー向上支援をされていて、これまで IT の仕事をしてない人が「お前デジタル詳しいだろ、DX 担当な」と任命されて悩む、そういう人が多いそうです。

感想
DX 人材って不足してるんやなあ(棒)。

要件定義の中心にモデルを置きLLMが出力した要件に責任をもつ

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株式会社バリューソース 代表取締役社長 神崎善司さんの講演です。

神崎さんは元豆蔵で筆者が入社した頃の上司でした。モデルベースのビジネスとシステムの可視化手法である RDRA を提唱して実践されています。

最近のプロジェクトでは AI エージェントに要件定義は全部任せるように舵を切ったそうです。AI が出力した要件定義を可視化して人間が検証するという段階になっているそうです。

AI にどうやって適切なコンテキストを用意し、AI の出力をいかに理解し軌道修正するかということが課題になっているとのことでした。

要件の可視化ツールとして RDRA Graph を使用して説明しておられました。

RDRA - RDRAGraphツール

感想
神崎さん AI エージェント使いこなしてるなあ。
RDRA のビューアの動きが面白くて、内容が入ってこない。

さいごに

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この後の講演やパネルディスカッションは離脱してしまい聴けませんでしたが[3]、視聴したどの講演も興味深く、AI エージェント時代を迎えてモデリングの重要性はさらに高くなっていることを確信できる内容でした。個人的には川島さんの講演がヒットでした。

Vibe Coding などの AI エージェントとの協調作業においては言語運用能力の重要性は認知されていると思いますが、AI とモデルを共有することで、AI の出力の質が高くなったり、認識齟齬が減ったりするのであればモデリングに取り組む価値はあるのではないでしょうか。

仕様駆動開発という言葉は出てきてますが、モデルベース仕様駆動開発の時代が来るのかもしれません。


  1. 本書は、「ふだん使い」の科学を身につけようというコンセプトの一般向け実用書に擬態した科学哲学の入門書とのことです。 ↩︎

  2. 全域性:取りうる入力の全てに対して 対応する出力が存在する(ふるまいが関数として定義できる) ↩︎

  3. パネルディスカッションの YouTube 動画もこちらに公開されています。 ↩︎

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