「問題」を診て「課題」を処方する ― 新人プロジェクトマネージャーがSOAPに学ぶ、問題解決の「型」
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はじめに
#新人プロジェクトマネージャー(PM)の皆さん。
プロジェクトの進行中に「うまくいかない原因が分からず、どうすればいいか悩む」ことはありませんか?
トラブルの根本原因が特定できず、適切な対策を打てずに時間だけが過ぎる。
そんな漠然とした不安を抱えることもあるでしょう。
この記事では、プロジェクトの不調を『病い』に例えます。
お医者さんのように問題を診断し、解決策を処方するための思考法と「型」を紹介します。
この記事は新人プロジェクトマネージャー向けシリーズ記事の一部です。
- 第1回:「問題」と「課題」の違いから始めよう(課題管理入門)
- 第2回:探偵型マネジメント ― 真実をどう見抜くか?(思考法・観察編)
- 第3回:「問題」と「リスク」の違いから始める(リスク管理入門)
- 第4回:「問題」をSOAPで診て「課題」を処方する(問題解決編)
👉 初めて読む方は 第1回から読む のがおすすめです。
プロジェクトの不調は『病い』に似ている:お医者さんの「診察プロセス」から学ぼう
#プロジェクトの問題は体調不良のように症状として現れます。
表面的な症状だけでなく根本原因を見つける必要があります。
ここではお医者さんの診察方法を参考に、問題を整理する方法を学びます。
1. 問診(もんしん)
#お医者さんはまず、患者さんがどんな症状で来たのかを聞きます。
この時、患者さんが一番困っていること、つまり「主訴(しゅそ)」を明確にすることが重要です。
主訴とは患者が病院に来た理由のことです。
具体的には、以下の質問をします。
- いつからその症状があるのか
- どの部分が痛いのか
- どのような症状があるのか
加えて症状の詳細や病歴の確認のため、以下の質問も行います。
- 症状がどのように変化してきたのか
- これまでにかかった主な病気や、現在服用中の薬はあるのか
- ご家族にかかりやすい病気や遺伝性の病気はあるのか
2. 身体検査
#問診が終わったら、実際に身体を診察します。
視診(目で見る)、触診(触って確認する)、聴診(音を聞く)などの方法が含まれます。
身体検査を通じて、問診で得た情報をもとに さらに詳しい診断をします。
必要に応じて、血液検査や画像検査なども実施します。
具体的には、以下のような診察や検査をします。
- のどが赤く腫れていないか、ライトを使って目で見て確認する
- 聴診器を胸にあてて、呼吸の音に異常がないか聞く
- お腹を軽く押して、痛い場所がないか手で触って確かめる
- 血圧や体温を測り、基本的な健康状態を数字で確認する
3. 診断と治療方針の決定
#最後に得られた情報をもとに診断し、治療方針を決定します。
診断とは病名を特定することです。
治療方針とはその病気をどう治すかの計画のことです。
具体的には、以下のように診断と治療方針を伝えます。
- 診断:「インフルエンザです」 → 治療方針:「ウイルスの増殖を抑える薬を処方し、 5日間は学校を休んで家で安静にしてもらう」
- 診断:「軽い捻挫です」 → 治療方針:「患部を冷やして固定し、痛み止めの湿布を出す」
- 診断:「原因を特定するため、さらに詳しい検査が必要です」 → 治療方針:「専門の医療機関を紹介し、精密検査を依頼する」
診療記録の「型」:SOAP形式を理解する
#お医者さんは患者の診療内容や経過をカルテに書き残します。
カルテは、ドイツ語の「Karte」に由来し、医療に関する情報を整理して記録するためのものです。
カルテにも「型」がある:SOAP形式とは
#この記事タイトルにもある「SOAP」は、医療現場で日常的に使われる
カルテの記録フォーマットです。
医師が患者の状態を体系的に記録し、効果的な診断・治療計画を立てるために用います。
SOAPは以下4つの項目の頭文字です。
- S (Subjective) : 主観的情報(患者本人が感じている症状、訴え、主訴など)
- O (Objective) : 客観的情報(医師が観察した診察所見、検査データ、バイタルサインなど)
- A (Assessment) : 評価(SとOの情報に基づき、医師が総合的に判断・分析した結果や診断)
- P (Plan) : 計画(評価に基づいた今後の治療方針、処方、検査、指導など具体的アクション)
SOAPの役割:なぜ体系的な記録が重要なのか?
#SOAP形式は、医療現場で診療記録を整理するための代表的な「型」です。
情報を「主観(S)」「客観(O)」「評価(A)」「計画(P)」の4区分で記録します。
これにより医療チーム全体で、患者の状態や治療方針に関する認識のズレを防げます。
その結果、適切な判断や対応を効率的に進められます。
プロジェクトマネジメントへの応用:SOAPが強力な問題解決ツールとなる理由
#SOAPは医療現場の記録「型」ですが、本質は「問題を体系的に捉える」思考プロセスです。
この考え方はプロジェクトマネジメントにも応用できます。
特に「チームの情報共有」や「方針・プロセスの言語化」を円滑にし、
PMが直面するコミュニケーション課題を解決する強力なツールとなるでしょう。
項目 | 医療現場の意味 | プロジェクトへの応用 |
---|---|---|
S:Subjective | 患者の主観的な訴え | 関係者の困りごとや声 |
O:Objective | 医師が観察した客観的データ | メトリクスや成果物などの事実 |
A:Assessment | 総合的な評価・診断 | 原因分析と評価 |
P:Plan | 治療方針 | 具体的な改善アクション(課題化) |
実践:プロジェクトの問題をSOAPで「診断」し「処方」する
#ここからは、プロジェクトでよく見られる課題を題材に、SOAP形式で整理・分析する方法を見ていきます。
具体的なアクションプラン(課題)への落とし込み方も紹介します。
ケース:設計フェーズでの手戻りが多く、品質に影響が出ている
#S:主観的情報(Subjective) - 問診
#まず関係者の声に耳を傾けます。
この時点では評価せず、主観的な訴えをそのまま記録します。
- 「レビュー資料の作成に時間がかかり、開発速度が落ちています」
- 「毎回レビューで根本的な指摘を受け、結局やり直しになります」
O:客観的情報(Objective) - 検査
#次に訴えを裏付ける「事実」を集めます。
感覚的表現は避け、具体的なデータを揃えます。
- (勤怠ログより)レビュー準備と説明のための個別資料作成に平均4時間以上を要している。
- (レビュー記録より)過去3回のレビューでの指摘件数は平均12件にのぼる。
A:評価・診断(Assessment) - 診断
#SとOを照合し、「なぜ問題が起きているか」を分析します。
- 設計書作成と個別説明資料の作成が二重作業となり、メンバーの負担を増やしている。
- 指摘の多くが設計フォーマットの解釈違いに起因している。
- 【診断】問題の原因は「レビューのやり方」そのものが非効率なことにある。
P:計画(Plan) - 治療方針(課題化)
#「A:評価・診断」で明らかとなった根本原因に基づき、具体的なアクションプランを立案します。
ここでのアクションは、第1回で学んだ「課題」として明確に記述することが重要です。
- 課題: 設計レビュープロセスの見直しによる、手戻り工数と品質低下の削減する。
- アクション1: 設計書直接レビューの試行
- 内容: 設計書を直接レビューするプロセスをXX部と協力して試行導入する。
- 担当: 明石
- 期限: XX/XX
- アクション2: 設計フォーマット・レビュー観点共有会の実施する。
- 内容: 設計フォーマットとレビュー観点の認識統一のため、共有会を実施し、Q&Aセッションを設ける。
- 担当: 富樫
- 期限: XX/YY
- アクション3: プロセス改善効果の検証と正式導入を判断する。
- 内容: 上記アクションの結果を2週間後にレビューし、客観的なデータ(例:手戻り工数、指摘件数)に基づいて改善効果を検証し、プロセスを正式導入するか判断する。
- 担当: 伊達
- 期限: XX/ZZ
- アクション1: 設計書直接レビューの試行
SOAPを使う3つのメリット
#-
「なんとなくの不満」を「分析可能な情報」へ変えられます。
客観(O)を揃えることで冷静な原因分析が可能になります。 -
「どうしよう」で止まらず「何をすべきか」まで繋げられます。
評価(A)から計画(P)へ、問題解決の筋道が自然と導かれます。 -
チームの「共通言語」として機能します。
SOAPに沿って議論することで情報のヌケモレや認識のズレを防げます。
まとめ:PMは「プロジェクトの臨床医」であれ
#PMにとってプロジェクトの健康状態を診断し、適切に治療することは最も重要な役割の1つです。
まるで臨床医のように、現場の声(S)に真摯に耳を傾けましょう。
客観的な事実(O)を収集・分析し、問題の根本原因を正確に診断(A)します。
そして、その診断に基づき、具体的な治療方針(P)として課題を処方する。
この一連のプロセスこそが、プロジェクトを成功へと導く鍵となります。
SOAP形式は、日々の「あれ?」「おかしいな?」という違和感を整理するためのツールです。
それを体系的な問題解決へとつなげる力があります。
まずは、日々の業務の中でSOAP形式を利用しメモを取る習慣から始めてみてください。
SOAPで培った問題解決の「型」は、やがてPMとしての自信となります。
そして、あらゆる挑戦に立ち向かう強力な「武器」になるでしょう。