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まだ他の”手法”がいるのか?と言われてもAmplioを紹介する

| 7 min read
Author: tomohiro-fujii tomohiro-fujiiの画像

この記事は夏のリレー連載2024 7日目の記事です。

まぁ、タイトルでいきなり”Amplio(アンプリオ)”なんて言われても、「何のことやら」と思う人がほとんどでしょう。Amplioは、今まさに進化の真っ最中を歩んでいるアプローチです。筆者は元々DA(ディシプリンド・アジャイル)に深く関わってきたのですが、Amplioの根底にある問題意識には共感するところが多く、多くの人の参考になるのではないかと考えています。
 そこで、進化の途上にある(つまり色々変わり得る)ということもあるので、細かい話よりも、「私たちにとってどういう意味を持ちうるか?」という観点でご紹介したいと思っています。興味を持たれた方は、記事の最後にいくつかURLを紹介していますので、ぜひアクセスしてみてください。

Amplioをクイックに知る

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  • 提唱者は、アル・シャロウェイ(Al Shalloway)氏。
  • Amplioは、氏が2021年に起業したSuccess Engineering社にて、主要な技術アセットとして現在構築中。
  • バリューストリームの改善を軸として、チームや組織のトランスフォームを支援する
  • プロセスフレームワークというよりも、プラクティスのカタログ集。ただし、単なる寄せ集めではなく、段階的な改善と結びつけた「意思決定支援」「効果的な学習」を標榜

Amplioの前身:

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Amplioは、まだ新しい手法ですが前身があります。アル・シャロウェイ氏が創業したNet Objective社で提唱されていたFLEX(Flow for Enterprise Transformation)です。この手法は、端的に言うと、「SAFeやスクラムに手を出してハマっている人向けの、解決を支援するプラクティスとガイド集」という位置付けでした。
 PMBOKでお馴染みのPMIは、アジャイルフィールドに足掛かりを作るため、2019年にNet Objective社からFLEXを、Disciplined Agile コンソーシアムからDA(Disicplined Agile Framework)を買い取ります。FLEXのアル・シャロウェイ氏、DAのスコットアンブラー氏、マークラインズ氏もPMIに参加し、FLEXとDAの統合がアナウンスされました。

この統合は実を結び、DA-FLEXとして、以下URLから参照することができます(PMIの会員ではなくても)
DA FLEX online book
https://www.pmi.org/disciplined-agile/da-flex-toc

その後、2021年にアル・シャロウェイ氏はPMIを離れ、新たにSuccess Engineering社を立ち上げます。そこで構築しているアプローチが、”Amplio(アンプリオ)”です。FLEXの再構築、いや集大成なのかもしれません。Amplioとしての歴史は、わずか2年強ですが、その理論体系はFLEXから始まる長い歴史があるのです。

余談ですが、翌年、DAをリードしていたスコット アンブラー(Scott Ambler)氏やマーク ラインズ(Mark Lines)氏もPMIを離れます。そして、統合の鐘の音は脆くも…(いや、知らんけど)。

AmplioとDAとの共通点

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意思決定のプラットフォームを標榜している

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前身であるFLEXがDAと統合ができるほどですから、AmplioとDAとの間にも共通点があります。それは、どちらも、「意思決定プラットフォーム」を標榜していると言う点です。

アジャイルを学んでいくと、「守・破・離」という言葉に出会います

アジャイルのプロセスフレームワークには、スクラム以外にもSAFeやLeSS等様々あります。決め事の詳細度は程度の差こそあれ、

  • 役割モデル
  • 主要な活動
  • 主要な成果物

が定められ、それらの関係性が、時に時系列に沿って定義されることで、共同作業のフローが規定されます。
スクラムのようなプロセスフレームワークを採用したチームは、経験の浅いうちはあらかじめ規定された作業フローを参照モデルとして使います。「守」です。成熟度が上がっていくにつれ、より自分達の置かれた環境や制約に合わせて様々な工夫を施します(参照モデルに従わない部分が徐々に出てきて、「破」)。やがては、自分達に最適なアプローチを自分達で見出すようになり、参照モデルから「離」れて行くのです。
あらかじめ規定されたものがあると言うのは、最初の1歩を踏み出す上ではとても役に立ちます。

しかし、Amplio のような(そしてDAやFLEXも) 意思決定フレームワークを標榜する手法は、異なる問題意識を持っています。初学者にとって優しかったはずの「あらかじめ規定されたもの」は、無理がきているのではないかと言うものです。
先程の「守・破・離」に結びつけると、以下のような感じです。

  1. そもそも守れるのか? の適用
     アジャイルの適用領域が拡大し、現場ごとに状況(最近は”コンテキスト”と呼ばれるのが流行り)が異なるのに、 基本的な定義しかないプロセスフレームワークは、果たして適合するのか?守るも何も、それ以前に”合わない”のではないか?最初の段階でもコンテキストに合わせたカスタマイズは必要なのではないか?
  2. 破ろうにも 、破り方がわからない
     自分たちのコンテキストに合わせて工夫(テーラリングとも呼ばれる)しようにも、コンテキストに合わせた選択肢ってどこにあるのだろうか?判断の材料や、その向き不向きがわからないので、手が出せない。
  3. 覚悟を決めて”破る”として、さてどうする?
     ビックバンで一気に行くのか、それともスモールスタートをすればいいのか?
     やり方を変更するって結構コストもかかるし大変だ。できれば段階的に進めていきたい。 進めていきたい…

つまり「この場合どうするの?」を判断し決定するための材料が不足していることが問題だという認識です。頭の中に引き出しがあっても、中身がなければ決められない、それなら中身を体系化して提示しよう・・・これが、意思決定フレームワークの考え方です。
 スクラムに代表されるプロセスフレームワークが、仕事のフローをある程度規定した参照モデル(いわば”To Be”)を提示するのに対し、DAやFLEX、Amplioは、局面々々でのコンテキスト(いわば”As Is”)に合わせた選択肢や選択の判断材料を整理体系化することで、意思決定をサポートすることに注力しています。
 このため、フレームワークとは相互に補完する関係となります。Amplioでは、さらに選択肢を提示するにあたり、「どんなフレームワークでも、現場でよく起こる問題」を起点にすることで、特定のフレームワークへの依存度を下げ、様々なフレームワークでも使えることを目指しています。

AmplioとDAは、何が違うか

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個々の用語の名称は別として、カバーする範囲が違います。

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DAは、PMIにより、今や「エンタープライズ全体をカバーする」との触れ込み…ですが、長らく携わってきた筆者個人としては、開発周りにフォーカスしたDAD(Disciplined Agile Delivery)しか、ほぼ見ていません。それは開発周りを定義したDADが一番歴史があり、内容も充実しているからです。一方開発部隊周辺まで巻き込んだバリューストリームという観点では、規定が弱いというのが弱点でした。それを補うためにPMIが買収したのがFLEXです。Amplioが出る前までは、バリューストリームの最適化のためには、DAに統合されたFLEX(DA-FLEX)を見ていましたが、今となってはAmplioに”全乗っかり”ですね。

Amplioを構成する要素

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位置付けの話はこれくらいにして、少々技術的な面にも触れておきましょう。
 Amplioの技術的基盤は、Flow、リーン、人間中心設計、そして制約理論(「ザ・ゴール」だ!)の上に構築されていると、アルさんは言います。

「スクラムとは関係ないの?」

ご心配には及びません。前述したように、「どんなフレームワークでも、現場でよく起こる問題」に立脚することで、スクラムにも十分適用できるものになっています。

一番ハイレベルの構成要素(”コンポーネント”と呼ぶ)は、次の3つからなります。

  1. 成功戦略
     Amplioでは人間中心設計とリーンスタートアップの考え方をベースに、価値を探索しながら、段階的にプロダクトを構築するためのガイダンスを提供します。
  2. 意思決定プラットフォーム
     前述した、「よくある問題」を起点とした選択肢の体系化と、それを利用して判断を下すアプローチを提供します。構造化された選択肢については、すぐ後でご紹介します。
  3. 効果的な学習
     改善を早くかつ適切なコストで進めようと思うと、自分たちのコンテキストを把握し、目的に合わせた改善を段階的に行うアプローチを立案する必要があります。改善の効果を評価しながら、効果的な学習とフィードバックのサイクルを回す必要があります。Amplioでは、このためのガイドと、Amplio GPSというツールを提供します。

これは、どこぞの巨大フレームワークのように、「多数の研修コースを順番に受講することを”ロードマップ”と称するアプローチ」とは対極にあるのです。

Amplioの書籍ではこの”学習”のアプローチの解説に結構なボリュームが割かれていたり、Amplio自体の解説本と同時並行でコーチングの本を執筆するなど、「学習して成熟度を上げる」ということをどう効率的に行うか、コーチとしてそれをどう支援するかに、強い関心が向けられているのを実感します。

Amplioが「いま風だな」と思ったのは、上記3つのどれもが、ステークホルダーとの対話(相互作用)を必要とするので、そのためのツールを合わせて提供していることで、特にMiroやLucidChartのようなバーチャルコラボツールを積極的に利用していることです。

意思決定プラットフォームを支えるのは、”デザインパターン”?

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Amplioでは、問題とその解決、コンテキストに応じた選択肢を表現するために、”パターン”を使います。そう、あのアレクサンダーのパターンです。ギャングオブフォー(GoF)のパターンです。
 具体的には、以下のような体系を採ります。

  1. 問題解決のパターンは、ケーパビリティ(Capability)と呼ばれ、その切り口は特定のフレームワークに依存しない、「よくある問題・課題」に立脚します。
  • 「作業とワークフローを可視化する」
  • 「マネジメントの役割」

等々があります。

2.ケーパビリティの記法はGoFのパターンカタログに見られるような、定められた書式に従い表現されます。

  • 名称
  • 目的(the What)
  • なぜ重要か
  • 克服すべき問題
  • どんな手段が取りうるか?(the How ※ここに選択肢が複数提示される)
  1. 個々のケーパビリティは、より大きな視点のカテゴリーに分類されます。
    本記事執筆時点では、書籍に取り上げられているのは、以下の5つのカテゴリーです。
  • 要求と成果物
  • ワークフローを管理するケーパビリティ
  • 学び、改善し、軸足を変える
  • 役割
  • 効果的なバリューストリームのための、チームとバックログの編成

これらのカテゴリーやケーパビリティは、本記事執筆時点でのものであり、今後も追加される予定とのことです。
実際のコーチングの現場では、これらのパターンを元ネタとして、前述したツール(MiroやLucidchart上のアセット)を使って、現状の把握、目標の設定、導入方法等を検討する流れとなります。

なぜ、Ampliioに惹かれるのか?

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最後に、「私たちにとってどういう意味を持ちうるか?」に触れておきましょう。

筆者が仕事で接する相手のほとんどは、「アジャイルができる」のではなく、「 アジャイルができるようになる過程」つまり過渡期 にいます。対面した時には、スクラムマスターやプロダクトオーナーの資格をすでに持っている人がチームにいることも珍しくなく、なのにそれでもサポートを依頼してきます(資格ビジネス万歳!)。

  • 彼ら/彼女らは、「スクラムがわからない」のではなく、今の状況でどうしたらいいか判断できないのだ(いや、スクラムもわからないんだけどね)
  • 自分の読んだブログや本といった限られた情報をあてにして良いのだろうかと不安なのだ
  • 「資格を持っていてもできない」ということだけが「確実にわかったこと」なのだ

過渡期にある実践者は、提示されたTo Beを無理やり自分達に当てはめようとし、そのTo Beで定義されていない領域や、自分達のコンテキストに合わない部分は、「何が適切な選択肢なのか」、「どこを見ればその選択肢に出会えるのか」わからないままに、勝手知ったるウォーターフォールのやり方を歪めて採用し、その結果アジャイルとしてもウォーターフォールとしても出来の悪い仕事の進め方で、気力体力を(そしてコストをも)浪費しています(間違っても、これをハイブリッドとは呼ぶまい)。
「何をするか」ももちろん大事ですが、また「何を選べるか」が整理されることで、ざまざまなコンテキストの中で下す日々の判断の助けとなるのです。

この問題意識は、DAの前身に初めて会った2000年代中期から変わらず筆者の中にあります。意思決定を支援するプラットフォームとしてのDAは、「頭の中の引き出しに、ネタを増やす」という意味で価値を見出していましたが、Amplioによって、バリューストリームという、価値を生み出す本流まで、「引き出し」が拡がりそうだ…これが、筆者がAmplioに惹かれている理由なのです。

参考情報のリンク

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以下に、参考になる情報へのURLを貼っておきます。
この記事を読んで関心を持たれた方は、ぜひあちこち情報を探ってみてください。

Success Engineering home
https://successengineering.works/
特筆すべきは、ここから、出版前の書籍のドラフト版を読むことができます。もちろん、内容にフィードバックを欲しいからですが。関心のある方は、ぜひ参加してAmplioに触れるとともに、提案やコメントをどしどしポストしましょう。

Youtube チャンネル
https://www.youtube.com/@successengineeringamplio
この公式チャネルでは、1時間程度の解説動画が多く見られます。英語の苦手な方でも翻訳機能のサポートがあれば、なんとかいけます。

さらにちなみに、DAのナレッジカタログであるDAブラウザを以下で参照することができます。
https://www.pmi.org/disciplined-agile/da-browser

さらにさらにさらに、PMIのナレッジとChat GPTを統合したPMI Infinityには、すでにDAのナレッジも組み込まれているそうな。
https://infinity.pmi.org/

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