Badに振り回されて、Problemを見失う──ふりかえりで向き合うべき「課題」とは何かを考える

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はじめに

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初めまして。デジタル戦略支援事業部の加藤です。

ふりかえりの場で、「何が問題だったのかよくわからないまま、次はこうしよう(Try)を考え始めてしまった」...そんな経験はありませんか?

仕事や日常のちょっとした場面で、理由がはっきりしないまま改善案だけを出して終わってしまったという経験は、多くの方に思い当たるところがあるのではないでしょうか。

今回は、私がジムで体験したある出来事を通して、「何が本当の課題(Problem)だったのか?」を改めて考えてみたいと思います。

とある出来事

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Aさん(仮名)と初めて言葉を交わしたのは、ジム通いを始めて半年ほど経った頃でした。脱衣所で洗顔料を忘れた私に、Aさんが「これ、あなたの?」と声をかけてくれたのです。

次に声をかけられたのも同じ脱衣所で、今度は私のものではありませんでしたが、忘れ物に気づいたAさんが声をかけてくれました。

「そういえば、以前も教えてくれましたよね」

「そうそう。後で気づいてガッカリするの嫌じゃない?」

「あの時はありがとうございました。私、目が悪くて見えないんですよ。助かります」

つい余計な一言を付け加えてしまう私の悪いクセですが、この時ばかりは功を奏した気がします。その瞬間、私の脳内のアントワネットが囁いたのです。

見えないのなら、眼鏡をかければいいじゃない

それ以来、荷物をまとめるときには眼鏡をかけるようにしました。

さらに、ジムではAさんと会うたびに会話を交わすようになり、別れ際には「忘れ物ない?大丈夫?」と声をかけてくれるようになりました。

気づけば、すっかり忘れ物をしなくなっていたのです。

ProblemとBad

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ここで少し、ふりかえりでよく使われる「KPT」というフレームワークをご紹介します。

KPTとは、Keep(続けたいこと)・Problem(課題)・Try(次に試すこと)の3つの視点で物事をふりかえる、シンプルで汎用的な手法です。

スクラムなどのアジャイル開発の現場ではもちろんのこと、プロジェクト活動全般や日常業務、さらには個人のふりかえりにも幅広く使われています。

そこで今回は、私のジムでの出来事を、KPTの中でもProblemに着目して考えてみたいと思います。

では、この出来事では何がProblemだったのでしょう?

たとえば、「洗顔料を忘れた」がProblemだと考えると、「忘れないためにはどうする?」というTryを考えます。すると、「チェックリストを作ろう」という発想になりがちです。

確かにチェックリストで洗顔料の忘れ物は防げるかもしれません。しかし、次に別の忘れ物をした場合はどうなるでしょうか。チェック項目は増え続け、やがてチェックリスト自体の確認を忘れてしまうかもしれません。最終的には「チェックリストをチェックしたか?」という項目が追加される…そんなことになりかねません。

そもそも、「洗顔料を忘れた」はProblemでしょうか。

実は、私にとっては「Bad」程度の出来事だったのです。

ここでは「Bad」を「おみくじで凶を引いた」程度のもの、と捉えています。確かにちょっと嫌な気持ちにはなりますが、それ以上深掘りするほどでもないものです。

忘れたのは数百円程の、しかも残り少ない洗顔料。なくしたところで痛手でも何でもなかったのです。

一方「Problem」は「健康診断で肥満と医師に告げられた」というような、放置すれば悪化する可能性があり、改善するための行動が必要なものです。

つまり、「目が悪くて忘れ物に気づけない」というのが、本質的なProblemでした。これが今後もさまざまな忘れ物につながる可能性があるからです。

これに対しては、「見えないなら眼鏡をかければいい」というTryが導けます。眼鏡をかけさえすれば、それだけで忘れ物のリスクが一気に減るのです。

また、もし忘れたのが「洗顔料」ではなく、ジム利用回数券の束だったらどうでしょうか。数千円の損失になる可能性があり、これはProblemと言えそうです。

ここで、再び脳内のアントワネットが囁きます。

失くして困るなら、持ってこなければいいじゃない

確かに、使うのは1枚なのだから束ごと持っていく必要はないし、洗顔料だって旅行用の小さいものを使えばいい。運動して帰るだけなのだから、財布すら不要かもしれません。

こうして今度は「失くして困るものは持ち歩かない」というTryにたどり着きました。

結果、荷物は必要最低限になり、忘れる心配も減り、気持ちも軽くなったのです。

ふりかえりでも、こうした「Bad」を「Problemにするべきか」を見極める力が必要です。

スクラムチームに置き換えると、「ミスがあった」「遅れた」といった事象(Bad)が起きた時、すぐに「チェックリストを増やそう」とするのは危険です。

本質的なProblemは、「なぜそのミスが起きたのか?」「再発したらチームの生産性や士気に影響するのか?」を掘り下げることにあります。

ときには「これは運が悪かっただけ」「気にしなくていいBad」として終わらせる勇気も必要です。

逆に「これは積み重なると深刻だ」と感じたら、早めにProblemとして特定し、Tryを考えるべきでしょう。

BadからProblemを見つける

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さて、今回なぜ「チェックリスト地獄」とならずに済んだのでしょうか。

Aさんが声をかけ続けてくれたことで、私は「実は目が悪くて…」と本音を話すことができました。あの一言がなければ、私はずっと「洗顔料を忘れた」というBadだけを繰り返し、根本のProblemには気づけなかったでしょう。

これと同じことが、ふりかえりでも起こります。

表面のBadはすぐ出ます。

でも、「実は設計がわからなかった」「納得できてなかった」といった本当のProblemは、 信頼と丁寧な問いかけがなければ出てこないものです。

そのためには、チームの信頼関係はもちろん、ファシリテーターやメンバーが「本当に困るのはどこか」と問い続ける力が必要です。

単なる「チェックリスト増やそう」ではなく、「そもそもなぜ?」を掘り下げられるチームになるためには、小さな声かけや雑談の積み重ねも大切なのです。

ふりかえりは、そうした「本音を話せるチーム」でこそ、Problemを見つけ、カイゼンへとつなげる場になるのだと思います。

おわりに

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ジム通いも気づけば3年目に突入しました。

Aさんのおかげで、今では楽しく続けられていますし、持ち物も最小限に絞ることができました。

…ただ、体型の方はまだ無駄をそぎ落としきれていないようです。

こちらも、そろそろ本気で「ふりかえり」が必要かもしれませんね。

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