スクラムマスターのAI活用を考える - 検査・適応

| 3 min read
Author: akihiro-ishida akihiro-ishidaの画像

はじめに

#

アジャイルグループの石田です。

第1回:導入第2回:透明性に続く、3部作の最後となります。

第1回の導入ではスクラムガイド拡張パックとAIによる経験的プロセス制御強化の可能性について、第2回ではJira×GAS×AIによる可視化ツールの作成を通してAIによる透明性の強化について紹介しました。
今回は、スクラムの三本柱の残り2つ、検査と適応について、スクラムマスターとしてAIをどう活用するかについてです。

現在、ミーティングの録音や文字起こし、およびそれをまとめるのにAIを使うのは一般的になりつつあります。業務で生成AIを活用するにあたって、大体の会社で真っ先に使われるところでしょう。
しかし、それを単なる「議事録」として保存するだけでは非常にもったいないです。
AIを「客観的な評価者(コーチ)」として活用し、チームのプロセス改善に切り込む事例を紹介します。

なぜAIに「レトロスペクティブの評価」を任せるのか

#

長い間同じチームで開発を行っていると、毎回同じような議論になってしまうマンネリ化を感じたことはないでしょうか。
毎回少しずつ改善点を見つけていく重要性は分かっていても、なんとなく良かったねという話で終わってしまい改善アクションの具体性が欠けたり、ステークホルダーに対する不満や愚痴に終始してネガティブな空気になってしまうこともありがちです。

レトロスペクティブ自体を改善するプラクティスとして「ふりかえりのふりかえり」を実施しているチームも多いかと思いますが、それもやはりマンネリ化の波にはなかなか逆らえません。

そこでAIの活用方法として、感情や人間関係に左右されない客観的な評価、すなわち検査をしてもらうという使い方が考えられます。

実践:AIによるレトロスペクティブの定量評価

#

実践方法は比較的シンプルです。ZoomやGoogle Meetなどで取得したレトロスペクティブの文字起こしデータを、そのまま生成AIに入力します。
その入力データをもとに、事前に定義した評価基準に従って、AIにチームの議論を採点してもらいます。

評価項目は、AIと壁打ちしながら優れたレトロスペクティブのための10項目を定め、各10点の100点満点でスコアリングします。実際に作成した評価項目の例は以下の通りです。

評価項目一覧:

  1. 話題の適切性
  2. 改善アクションの具体性
  3. 会議の進行とファシリテーションの質
  4. 活発な議論
  5. 参加度と発言分布
  6. 議論の論点の着地
  7. 議論の深さ
  8. 進化の持続性
  9. ポジティブな視点
  10. 参加メンバー間の中立性

また、スコアだけでなく次回の改善点も具体的に3つ提案してもらいます。
そうすることで、特にスコアの低い評価項目に対して、ファシリテーター以外のメンバーの発言を促す、議論が長引かないようタイムボックスを意識する、手法を変えてみるといった、具体的なアクションを提示してくれます。

こうした評価とアクションを出力させるためのプロンプト自体も、生成AIに相談しながら構築します。AIと対話しながらプロンプトを作り上げる過程は、シンギュラリティの始まりを感じられて個人的にすごく好きです。

Geminiを使用する場合は、このプロンプトをシステムプロンプト(カスタム指示)としてGemを作成しておくと便利です。

フィードバックのループを回す

#

これまでにレトロスペクティブの定量評価を行う準備は整いましたが、評価して終わりでは意味がありません。この結果を次回のレトロスペクティブのアクションに繋げていきます。

具体的には、次回のレトロスペクティブの冒頭で、前回算出されたAIスコアと改善提案をチームに共有します。
これにより、前回の反省(例えば、アクションが曖昧だったなど)を意識した状態で新たなレトロスペクティブをスタートできます。

こうしたフィードバックは本来スクラムマスター自身がチームを観察したうえで行うべきものですが、生成AIというパートナーの存在により、さらに客観的で説得力のあるフィードバックが可能になります。

チームに起きた適応の実例

#

AIによる客観的なスコアやアクションの提示によって、実際にチームに起きた適応(変化)の実例を2つ紹介します。

1つ目のケースは、ポジティブさの欠如による低スコアの例です。AIから不満や課題の指摘に終始しており、ポジティブな視点が不足しているという指摘を受けました。その適応策としてサンクスカードを導入し、意図的に感謝や良い点を伝え合う時間を設けることで、ポジティブな発言を促すようにしました。

2つ目のケースは、アクションの曖昧さによる低スコアの例です。AIからは改善案が出ているものの具体的な実行計画に落ちていないと指摘されました。これに対する適応策として、アクション決定時に「いつ、誰が、何をするか」という5W1Hの確認を徹底するルールを設けました。

応用:デイリースクラムへの展開

#

今回はレトロスペクティブでの検査や適応の例を紹介しましたが、もちろん他のイベントにも応用可能です。その一例として、一番効果が出やすいのはデイリースクラムかもしれません。

デイリースクラムには15分で終わるという厳格なルールがあります。もしそれより長引くようであれば、準備の不足や議論への深入り、あるいは不要な話題を話している可能性があります。
また、デイリースクラムは単なる作業報告ではなく、スプリントゴールを達成するための検査の場であるべきです。

このような毎日のイベントだからこそ、AIによる客観的な検査と適応の繰り返しが、大きな働き方の改善に繋がる可能性は高いでしょう。

まとめ:スクラムマスターのパートナーとしてのAI

#

本連載では、第2回で透明性(データの可視化)を確保し、第3回で検査と適応(プロセスの評価と改善)を実践するという、スクラムの三本柱を生成AIで強化する方法について紹介しました。

スクラムマスターは、チームがスクラムを正しく実施できるようにチームを観察し、この三本柱の維持に努める必要があります。

AIは、人間が気づきにくい癖や傾向を客観的に指摘する検査が得意です。一方で、その指摘を受け止め、どうチームを導くか、どう文化を作るかといった適応の部分は、スクラムマスターとチームが考えて行う必要があります。

AIを良きパートナーとして活用することで、自分たちのスクラムをより強化していくことが、今後のアジャイル開発において重要になっていくのではないでしょうか。

豆蔵では共に高め合う仲間を募集しています!

recruit

具体的な採用情報はこちらからご覧いただけます。