スクラムマスターのAI活用を考える - 導入
Back to Topこれは豆蔵デベロッパーサイトアドベントカレンダー2025第4日目の記事です。
はじめに
#アジャイルグループの石田です。
近年、生成AIの進化は目覚ましく、私たちの働き方を大きく変えようとしています。豆蔵デベロッパーサイトでも、設計、実装、テストといったシステム開発の各工程で生成AIを活用する記事が豊富に投稿されています。(ご興味があれば #生成AI や #AIエージェント のタグもご覧ください)。
一方で、スクラムマスターとしてスクラムのプロセス自体にAIをどう活用するか、というテーマはまだ発展途上で、具体的な実践例も多くはありません。
そこで本連載では、全3回にわたり、スクラムマスターがAIとどう向き合い、チームを支援できるかのヒントを、私自身の実践を交えながら探っていきます。
連載の構成は以下の通りです。
- 第1回:導入(本記事)
- 第2回:透明性
- 第3回:検査・適応
第1回となる本記事では、スクラムガイド拡張パックで言及されている「人工知能」の考え方をベースに、スクラムにおけるAI活用の全体像と基本的な考え方をご紹介します。
スクラムガイド拡張パックとAI
#スクラムガイド拡張パックは、2020年版スクラムガイドの包括的な副読本として作成され、2025年6月に公開された文書です。有志により日本語化もされています。
この拡張パックでは、変化し続ける市場や技術に対応するため、人工知能(AI)が「拡張パックにおけるスクラムの役割」のひとつとして定義されています。これは、AIが単なる技術トレンドではなく、スクラムの実践を強化する重要な要素として認識されていることを示しています。
AIがスクラムを強化する可能性については、下記のように紹介されています。
AIは以下を通じてスクラムを強化する可能性がある:
- 経験的プロセス制御:AI駆動の分析により、透明性・検査・適応が改善される。
- 認知的拡張:AIにより、人間のスクラムチームメンバーは戦略的・創造的・倫理的な検討に集中できる。
- 継続的な価値適応:AIは、リアルタイムのユーザーフィードバックとトレンドに基づき、プロダクトバックログアイテムの更新と再優先順位付けを行うことができる。
- システム洞察:AIは隠れた相互依存関係を特定し、データに基づいた意思決定を改善する。
この連載では、特にスクラムマスターの役割と深く関わる一つ目の項目に焦点を当てます。
経験的プロセス制御:AI駆動の分析により、透明性・検査・適応が改善される。
(原文:Empirical Process Control: AI-driven analytics improve transparency, inspection, and adaptation.)
スクラムマスターの重要な責務は、チームがスクラムの三本柱である「透明性・検査・適応」を実践できるよう支援することです。AIは、この経験的プロセス制御を、これまでになかったレベルで強化する可能性を秘めています。
まとめと次回予告
#スクラムガイド拡張パックの役割の中の「スクラムマスター」には、下記のユニークな一文が記載されています。
スクラムマスターは人間でなければならない。
(原文:The Scrum Master must be human.)
これは、チームとの協働や複雑な人間関係の調整といった、人間にしか果たせない役割の重要性を示唆しています。AIはあくまでスクラムマスターの能力を拡張する「強力なパートナー」であり、私たち人間はより本質的な課題に集中できるようになります。
スクラムガイドの精神を元にスクラムに関するアドバイスをAIスクラムマスターからもらうことはできるかもしれませんが、決してスクラムマスターの仕事を代替するものではなく、その役割を強化し、チームの能力を最大限に引き出すためのパートナーである必要があります。
本記事では、AIをスクラムに「導入」するための第一歩として、その全体像と可能性を提示しました。
次回は、スクラムの三本柱の一つである「透明性」をテーマに、AIという新たな武器をどう活用し、プロジェクトの「見える化」を行うか、具体的な実践例を交えて探ります。
